肩シリーズ
latest update: 2006.04.12
1.五十肩
正式病名は「肩関節周囲炎」と言います。「五十肩」とは一般的便宜的呼称で、およそ50歳代で発症すれば50肩、40歳代なら40肩と言って差し支えない。肩〜腕に痛みを覚え、次第に腕を挙げたり捻ったりすることが困難となり、手が後頭に届かない(髪が結えない)、腰の後に届かない(帯を結べない)様になります。
一体どうして起きるの? どうなっているの?
肩関節は浅い肩甲骨の関節面を上腕骨がぐるぐる見かけ上360度回旋する、極めて自由度の高い関節です。実は上腕骨は180度程度しか回旋しませんが、挙上・下降・内旋・外旋を組み合わせて360度カバーします。この関節を支えているのが関節包および靱帯ですが、中年に差し掛かる頃に負担に耐えきれず炎症を起こすと、関節包(右図青色部分)が収縮して、一時的とは言え動きが悪くなることがあります。そのきっかけは転倒であったり、無理な作業であったり、原因が思い当たらないこともあります。概して突然発症するのではなく、徐々に悪化するので、きっかけと結びつかないことが多いようです。
しかし一定期間が経過すると、再び緩んできて、動きが回復します。その人によって重傷度も期間も異なりますが、概ね2〜3カ月かけて進行し、3カ月ほどの慢性期を経て、さらに数ヶ月で軽快します。
診断は?
徒手的な診察で概ね分かりますが、一応
レントゲン検査
で他の要素のないことを検査します。通常それ以上の検査は不要ですが、必要があれば
関節造影検査
または
MRI検査
で、
腱板損傷(下記)
などでない事を確認します。
治療は?
自然に治ると分かっていても、痛ければ困るし、動きが悪くても困ります。痛みのために大事にしすぎても、無理に動かしても悪化することがあり、ひどくなると「凍結肩」と言って、ほとんど手を挙げることが出来ないばかりか、夜間痛みで目が覚めたり、何よりこの様な重症であればあるほど長期間(1年以上)治りにくい事になります。
そこで、治療にはいくつかの考え方があります。
1)
軽症の内に悪化させない
工夫をする
早期から無理のない動かし方を知っておくべきです。むやみに振り回すのは「泣き面に蜂」となりかねません。
2)ひたすら
痛みに対する援助
をして自然治癒を待つ
物療で温熱とともに無理なく動かす運動をする。必要に応じて鎮痛剤を使う。必要に応じて関節内注射を行う(2週間に1回程度)。自宅では入浴後に無理なく体操する。
3)可動域が狭くなったら
モビライゼーション
を行う
麻酔をかけてバリバリと動かしますが、内出血することもあり、かえって悪化する場合が30%?ほどあるというリスクを伴います。特に初期進行中には勧められません。
4)
手術
的に癒着を剥離する
重症で、1年経っても動きが悪い場合に、関節内の癒着を剥離する方法ですが、あまりお勧めは致しません。
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2.肩腱板損傷
肩関節腱板損傷とは、勢い良く転倒して手や肘を突いた時など、肩関節で上腕骨が肩甲骨にぶつかって、間にある腱板(ローテーター・カフ)が傷ついたり破れたりした状態を言います。直後より肩関節挙上困難(腕が挙がらない、ばんざい出来ない)や、挙がっても鋭い痛みを伴うなど、日常生活動作や仕事に支障を来すほか、夜間しくしく痛むために病院に行かざるを得なくなります。ただし、全方向の動きが硬くなる五十肩と違って、他方の手で持ち上げると挙がる、寝ると手が挙がるなどの特徴がありますが、五十肩と区別が難しいこともあり、検査で確定します。
原因は?どうなったの?
転倒や転落して腕を突き込んだり、以前は発動機エンジンを手回しで始動する際に反発(けっちん)を食って授傷する方がありました。長期間腕を上下して作業する職業(大工左官業、林業、果樹農園業など)では、少しづつ痛めているため、高齢になるとちょっとした無理がきっかけで腱板がすり切れたり破れたりする場合があります。
検査は?
徒手検査で大まかな見当をつけます。医師には指先の感触でまずわかります。確定診断には
関節造影
か
MRI検査
が有効です。右図は関節造影で、aが上腕骨大結節、bが腱板(棘上筋)断裂端を示す。この間のギャップは2cm未満であり、充分縫合可能な範囲です。
治療は?
傷が小さければ、無理を避けている内に痛みがとれますが、無理をして傷が拡大すると、ますます調子が悪くなり、腕が挙がらなくなります。反対の手で支えると挙がるが、悪い方の腕の力では挙がらないと言う具合です。こうなれば最善の方法は手術で傷を縫うことです。
1)
腱板修復手術
(右図)
肩関節を開けて縫う
直視下手術
と、関節鏡で縫う
鏡視下手術
があります。直視下手術の方がより大きな断裂にも対応しやすく、確実に縫合できます。熟練者なら3cmの皮膚切開でほぼ確実に縫合できます。一方、鏡視下手術は傷が小さくて済むと言っても1cmの傷が2〜3箇所出来るので結局3cm切開の直視下縫合と大差ないばかりか、縫合自体が不確実になる場合があり、また大きな断裂には対応困難です。筆者はこれまで直視下手術で実績を積んでいます。
術後はエアプレーン装具(肩関節外転位で固定)を装着して縫合部の緊張を緩和し、一定期間後にリハビリを開始しますので、術後は近隣医療機関に入院をお勧めしております。
2)腱板移植術
腱板の断裂部分が3〜4cm以上で長期経過している場合は縫えない場合があります。その様な欠損部を充填する方法(腱移植術、パッチ閉鎖術)が無いことはないのですが、あまり期待するほどの結果が得られません。従って、陳旧例特に高齢者の場合は手術せずに保存的治療に終始するか、最低限骨の当たりを減らす手術に止める場合があります。要するに、大きく破れた腱板を縫うなら早いほうがよい、遅くとも1年以内が良いと言えます。
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