手シリーズ


ガングリオン
バネ指
ド・ケルバン病
手根管症候群
ロッキングフィンガー

latest update: 2006.09.11

1.ガングリオン

 ガングリオンとは、袋の中に粘液が溜まった状態で、関節のあるところ何処にでも出来ますが、手関節周辺によく見受けます。これまでガングリオンないし類似の嚢腫を経験した部位は、手関節、指、肘関節、肩関節、肩鎖関節、胸鎖関節、股関節、膝関節、足関節、足趾つまりほぼ全身です。脊椎にも報告があるようですが経験していません。

左図は手におけるガングリオンの好発部位で、
1.手関節背側
比較的大きくなりやすい。

2.手関節掌側の母指付け根で脈を診る動脈近く
小さくても痛いことが多い。

3.手のひらで指の付け根
腱鞘に発生し米粒大で硬く触れる。


ガングリオンの治療
1)注射器で吸い出すか袋を破る
 ねばり気が強いので細い針では吸い出せず、比較的太い針を使います。吸い出せないときは注射針で穴を開けた後で絞り出します。ただし再発しやすい。
 腱鞘から発生したガングリオン(上記好発部位3)の場合は注射針で破るだけで治癒することが多い様です。

2)手術で摘出する
 ガングリオンは上記好発部位1,2の場合、関節と交通しているので、関節包の一部を含めてきちんと取る必要があります。適当に袋だけ取ると再発する事があります。
 
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2.バネ指(弾発指)

 バネ指とは、腱鞘炎の一つで、指を曲げる屈筋腱が、腱鞘出口でスムースに動かなくなった現象です。軽症の場合は引っかかり現象と痛みが起き、重症の場合は指が曲がったまま伸びない(右図)、あるいは伸びたまま曲がらなくなる事があります。
幼児では母指に多く、大人では女性に多く、母指>中指≒環指>示指≒小指の頻度です。

バネ指の治療

1)放置
 数ヶ月〜1年程度で自然治癒することがあります。
2)腱鞘内ステロイド注射
 痛みが強いときは注射が有効ですが、効果が長続きしないことも多く、やむを得なければ2週間以上間隔を開けて繰り返すことがあります。
3)手術
 痛みが強くて我慢が出来ない、または早くなおしたい場合は、手術をしますが、以下の方法があります。
 皮下腱鞘切開術:注射針で手探りで腱鞘の近位端のみ切開します。針穴しかあかないので翌日には水仕事が出来ますが、手術成績不確実な場合があります。
 直視下腱鞘切開術:手のひらを1cm程度切開して安全確実に腱鞘を切開します。1週間程度水仕事を遠慮していただきます。
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3.ド・ケルバン病

 ドケルバン病腱鞘炎の一つで、親指を使うときに手関節の親指側が痛くなる病気で、洗濯物を硬く絞るなどの動作が困難となります。手関節の親指側に少し腫れた部分があり、触れると痛いし、親指を他の指で握って手全体を小指側に傾けると痛みが誘発されます(Finkelstein's test、右図)。これは短母指伸筋腱と長母指外転筋腱に発生する腱鞘炎です。なお、”ド・ケルバン”とは、1895年に詳細な報告をしたスイスの外科医の名前を冠したもので、英語表記では、de Quervain's disease です。

ドケルバン病の原因

1)解剖学的側面
 伸筋腱第1区画という腱鞘(トンネル)内を短母指伸筋腱と長母指外転筋腱が走るが、両腱の間に隔壁(仕切り)がある人があり(右図の左と中央)、この様な場合に発生しやすい。人体解剖で隔壁の検出頻度が約50%であるにも関わらず、ケルバン病で手術に至った症例で隔壁の存在頻度は70%以上であることが根拠です。そもそも短母指伸筋腱は長母指外転筋から別れたもので、人類にだけ存在する。進化途上のトラブルか?
2)ホルモン説
 女性に多く(男性の5〜7倍)、しかも妊娠後期〜出産後や更年期以降に多発する。こうなれば女性ホルモン(減少)の関与が疑われるが、詳しいメカニズムは知られていない。とにかく「風が吹けば桶屋が儲かる」式に、ホルモンバランスが崩れれば腱鞘炎が起きるらしい。
3)慣れない手つき説
 初産の女性に多い点について、慣れない手つきで児の頭を支え続けているからというもの。説得力ありそうだが、原因か悪化要因か不明です。

ドケルバン病の治療

1)妊娠後期〜出産直後の場合は、シップ程度でしのぐことになります。母指の使い方に関しては指導させていただきます。

2)更年期以降の方でしたら、腱鞘内注射により数日〜数週間は比較的楽になります。継続が必要な場合には2週間の間隔を開けます。
3)手術:慢性化して日常生活に支障がある場合は、腱鞘を切開して狭窄状態を開放します。切開は2cm程度ですが、神経を傷つけず、埋没して隠れていることのある短母指伸筋腱を確実に開放する必要があり、慣れた医師に任せた方が無難です。

参考文献

1)小倉 丘、赤堀 治:伸筋支帯第1区画の解剖所見について.日本手の外科学会雑誌6:143-146,1989.
2)小倉 丘、橋詰博行、佐々木和浩、赤堀 治:伸筋支帯第1区画における短母指伸筋と長母指外転筋の滑走距離.日本手の外科学会雑誌14:124-127,1997.
3)Takahashi, Y., Hashizume, H., Inoue, H., Ogura, T.:Clinicopathological analysis of de Quervain's disease. Acta Med Okayama 48:7-15, 1994.
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4.手根管症候群


 手根管症候群腱鞘炎が関係します。結果的に正中神経が圧迫されて、指がしびれ、物がつまみにくくなる病気です。

手根管症候群の原因

 手関節のてのひら側の手根管という通路の中には、指を曲げる腱9本(母指1本、他は2本ずつ)と正中神経があります。慢性的な腱鞘炎のために腱周囲膜が腫れると、正中神経が圧迫され、神経附属の細血管が循環障害に陥ることで、神経機能が悪化する事により発症します。やはり腱鞘炎の常として女性に多く、しかも更年期以降に多い。

手根管症候群の症状

 正中神経の行く先である母指、示指、中指、環指の中指側がしびれます。
特徴として冬の明け方に悪化します。
症状が強ければ指先の痛みで目が覚めることがあり、また洗面時に冷たい水に手を漬けると痛みます。
春になれば一般に症状が軽くなるが重症の場合は持続する。
母指球(親指付け根のてのひらのふくらみ)が痩せてくる(筋萎縮)と、親指を手のひら側に立てることが難しくなり、コップなどをつかむとか、親指と人差し指の尖端で物をつまむ動作がしにくくなります。

手根管症候群診断のポイント

 しびれの範囲が上記の正中神経支配領域に限られること。
手首を手のひら側に曲げると指先のしびれが誘発されること。
母指球の筋萎縮があること。
筋電図検査(神経伝導速度測定)で診断が確定します。

手根管症候群の治療

1)平素の注意:使いすぎないこと、手首を手のひら側に曲げないこと、しびれたら手を振ること、寒い朝しびれたら手を温めること。
2)消炎鎮痛剤(内服)
3)ステロイドホルモン剤の手根管内注射(2週間に1回程度、必要な期間のみ)
4)手術(手根管開放術・・圧迫している横手根靱帯を切離します)

  手根管症候群の手術について
1)手のひらを切開する従来の方法(右図の左側):2週間以上手を使えません。重労働は1ヶ月程度困難です。
2)内視鏡による鏡視下手術(右図の右側):手首付近を1cm切開するだけなので早期に手を使うことが出来る。通常は1週間で抜糸後は家事・軽作業が可能です。岡山県内で本手術を実施している医療機関は、岡山大学附属病院、笠岡市民病院、日赤岡山病院、重井病院、当院、ほか。

その他の手の痺れを来す諸疾患

 手先がしびれる病気としては、1.脳梗塞など脳疾患 2.頚椎症など頚椎疾患 3.糖尿病など末梢神経障害 4.末梢神経絞扼障害などがあります。
1)脳疾患では多くの場合、軽くてもぼんやりするなどの意識障害を伴いやすく、しかも例えば右上肢と右下肢全体がしびれ、言語障害もあると言うように、しびれが手だけに止まらないことが多い。要するにぼんやりして片手足が不器用になる。
2)頚椎症、むち打ち損傷などでは、頭痛、後頚部痛、いわゆる肩の痛みや肩こり、背中の痛みといった、しびれ以前に痛みを感じやすい。要するに脊椎周辺に痛みがある。
3)糖尿病性末梢神経障害ではどちらかと言えば手より足のしびれがが強く、左右ともしびれやすい。要するにの症状が強く左右差が少なく、喫煙で悪化します。
4)末梢神経絞扼障害とは、上肢なら橈骨神経障害で下垂手(手の背屈が出来ない)、尺骨神経障害で小指のしびれや鷲手(指先の伸展が出来ない)、正中神経障害で小指以外の指先のしびれや猿手(母指対立が出来ない)などです。この正中神経障害が手首〜手のひらで起こる現象を手根管症候群と言います。
 整形外科で上肢のしびれを訴える患者さんの内、上記諸疾患の頻度は、2>4>1>3の様です。
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ロッキングフィンガー

 ロッキングフィンガーとは、突然指が伸ばせなくなる現象で、腱鞘炎のような前兆も痛みもありません。中指に多く、曲げることは出来るが、MP関節の伸展が出来なくなります(図A)。この原因の多くは、側副靱帯の一部(fan-like portion)が、MP関節掌側(手のひら側)側面に出来た骨棘(図B矢印)に長期間こすられている内に穴が開き、はまり込んでしまうことです(図C左)。局所麻酔をして、徒手整復すれば容易に解決し、すぐ動くようになります(図C右、図D)。
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